片・すぐお腹痛くなる。

まだ生きていたのか?!

今年買ってよかった本2021

 まずはいきなり2020年に買った本で申し訳ないのですがこの本を紹介させてください。

 今年一番ショックだった出来事は、一番好きな番組であるザ・カセットテープ・ミュージックのレギュラー放送が終了したことでした。70年代に活動していたガロというバンドに狂っていた私が80年代の音楽にも触手を伸ばすようになったのは、この番組が80年代の優れた楽曲をたくさんかけてくれたからなのです。この本は見開きの片面が歌本、片面が番組の内容を抜粋した音楽理論解説になっていて、自分で演奏したり歌ったりしながら音楽理論が身に着く画期的な本なのです。私はこの本と番組のおかげでアニメ「あたしンち」の尻文字のコーナーで流れる音楽にミ♭が使用されていることに気付くことができました。確実に耳が養われているのです。テキストも充実していて、シティ・ポップとアーバン・ミュージックの境界を論じた「シティ/アーバン論争」はかなり読み応えがあるのです。番組を見ていても見ていなくても80年代の音楽が好きならおすすめできる本なのです。

 

 今年めでたくアナログオーディオを揃えたのです。その前からガロやチューリップ、斉藤由貴のレコードや、ザ・カセットテープ・ミュージックで聴いて気になった曲のEPなんかをちまちま集めていたのですが、すぐに知っている曲やアーティストのストックが切れてしまい、途方に暮れていたころにこの本が出たのです。昭和に発売されたEPばかりを1000枚紹介しています。ジャンルは歌謡曲あり、ロックあり、フォークあり、アイドルもバンドもとりまぜての1000枚! フルカラーのジャケットに小ネタが添えられて順不同でずらっと並んどるのです。壮観です。私はこの本に紹介されている曲でプレイリストを作ったり、気に入った曲をリストアップしてリサイクルショップのEP1枚50円コーナーで探したりして、かなり使い込んでいるのです。

 

 件の番組ザ・カセットテープ・ミュージックでスージー鈴木氏がこの本から何か引用していて、気になって買ってみました。音楽理論の初歩的な部分はカバーされていると思います。私がヤマハの音楽教育支援サイトで得たのと同等の知識がこの1冊で得られます。私が特に気に入ったのは教会旋法という音階です。白鍵だけを使う音階で、主音によって全音と半音の場所が変わるので面白いのです。あとは和音の選び方という項目も参考になりました。メロディーから適当に一音抜き出して、その音に対して7マイナーなら6通り、7メジャーなら5通りの和音を提案するというものです。初心者の私から見るとちょっと意外に思える和音も、実際に鳴らしてみるとそんなに違和感なく響くのが面白いのです。

 

 元父親がフォーク好きだったこともあり、「22才の別れ」だの「神田川」だの「なごり雪」だの「東京」だのを子守唄代わりに聴いて育ちました。その影響か、長じてからもたまに動画サイトでこれらの楽曲を聴いていたのです。そこから派生してガロを知るに至るのですが、関西フォークには全くのノータッチで生きてきました。あまりにも不勉強なので関西フォークを知るにうってつけの本だと思ってこの本を買ったのです。これが読み物としてとても面白い。なぎら健壱の文筆家としての才能に感服なのです。

 

 世代としては私はMD世代にあたるでしょうか。私自身はMDコンポもMDプレーヤーも持っていなかったのですが、上兄弟がいるような子たちはみんな持っていたような気がします。私にとってはその後に出始めたMP3プレーヤーのほうがずっと身近な音楽メディアとなりました。当然FM雑誌なんてものは見たこともないし、エアチェックなんて言葉もこの本のタイトルで知ったくらいなのです。私はこの本の文庫化を「波」8月号の北村薫の連載で知りました。その連載で引用されている箇所に、京極夏彦の名前が出てきて、ちょっと読みたくなった気持ちもありましたし、80年代の日本の音楽シーンについても何か知ることができるかもしれないと思いました。これが読んでみるととても面白い本だったのです。80年代の業界振り返り系エッセイはどんなものでもまずハズレはないと言って過言ではないのですが、本書も例外ではないのです。FM誌としては後発であったFMステーションが、一躍人気誌となり、そして音楽メディアの変遷とともにその役目を終えていくまでの内情が綴られているのですが、横暴なボスに振り回される話やオフコースとの確執、取材してきたアーティストたちのこぼれ話など、本筋からは逸れたところにも読みどころがたくさんあって実に楽しい本なのです。

 

 これはとても面白くて、あっという間に読み終えてしまったのです。下手にあらすじとか書いても面白さは伝わらないのです。実際あらすじから想像する20倍は面白かったのです。二人のキャラクターも最高。

 

 今年は津村記久子の新刊が2冊も刊行されたのです。津村記久子ファンにとってはまさに夢のような一年でした。「つまらない住宅地のすべての家」は、とある住宅地のそれぞれに問題を抱えた家庭を連作形式で描写しながら、女性受刑者が刑務所から脱走したという事件をきっかけに住人たちが交流を得て、少しずつ事態が快方へ向かっていく様子を描いた作品です。津村作品に頻出するあらゆる家庭の問題を煮詰めたような住宅地で、それぞれに追い詰められ張りつめている住人達の生活は読んでいて辛いものもありますし、冒頭の住宅地図と照らしてきちんと人物と家族構成と家の位置関係を把握しながら読む必要もあるので、初めて読む津村作品としては少し難しい部類に入ると思うのです。でも面白いのです。
 「現代生活独習ノート」は短編集なのです。収録されている短編は、テーマに「回復」を感じるものが多いのです。私が特にお気に入りなのは、録画していたコロンボ傑作選が終わったあとに自動で録画されているムーンTVというテレビ局の番組をなんとなく見続けるうちに少しだけ気力を取り戻していく「レコーダー定置網漁」と、休日出勤中に先輩が「突然気力がなくなっ」て資料室に閉じこもってしまう「メダカと猫と密室」と、タイプの違う中学生二人の交流を描いた「イン・ザ・シティ」の三篇です。華々しかったり、起伏が激しかったり、感情を揺さぶられるような小説を読むのがしんどいときにおすすめなのです。